10 “一世風靡”
 先週は三隣亡大殺界か。あれこれツキの無いことが起こり、とどめはネットのダウン。ウイルスバスターをかけたりあれこれやって結局、原因はモデムの故障でした。新しいものが来るまで使用不能。ネットバンキングも出来ず、HPの更新もならず生きた心地のしない1週間を送ったのです。

 山遊びも2週連続で失し、ご訪問の皆様にはお詫びします。山歩きは出来なかったけどパソコンのキーボードを歩いて道草を作りましたのでよろしかったらお読みください。


1.ビクトリィ! 

 やっとDVDが、私の所に回ってきました。

 「ビリーズ・ブートキャンプ」米国の新兵さんは6週間の訓練キャンプがあり、ビリー隊長はかってその教官でした。その頃の訓練を元に彼がエクササイズを考案したのです。「ビリーバンド」というゴムバンドと1週間プログラムのDVD4枚セットで9700円。(別売しないとこがにくい)

 わが社でも数名が購入し気のいい人が、女子優先でDVDを貸してくれました。通販会社では1万枚売ればヒットだそうです。しかし日本で50万枚、世界では2千万枚も売れ、関係者は笑いが止まらなく顎が外れたそう。大ヒット御礼でビリー隊長は、来日してテレビに出まくっていました。

 早速DVDを見ました。先頭の隊長が指示するエクササイズを10数人が軽快な音楽に乗り、エアロビ風に群舞しています。きっちり揃っているのでかっこいい。8カウントでワンセット「カウンティ-! 数えて」「グッジョ! いい動きだ」「あきらめるな!」「君なら出来る!」「聞こえないぞ!」隊長は励まし続ける。

 動きを止めずに繰り出す独創的な動作に魅入られます。一世を風靡する時の人、ビリー隊長は明るいキャラクターで頼りになるナイスガイ、孫までいるマッチョお爺ちゃん。しかし動きはパワフルでキレが良く、とても51歳とは思えません。その筋力、柔軟性、スピードは目を見張ります。体脂肪率が何と6.2%。

 私が気に入ったのは、彼の右にいる娘のシェリーです。引き締まったプロポーションでしなやかに隊長の指示するエクササイズを黙々とこなします。彼女がアップで写ると動くたび“スラリ”と音が聞こえる。日本でも前面に出ず、ひたむきに動きを繰り返していました。好感が持てます。女性陣は彼女の体型に憧れセットを購入したのでしょう。彼一人ではこんな大ヒットにはならなかったかも。

 この裏には、きっと敏腕プロデューサーがいて見せ方、構成、音楽、色々な仕掛けを考えたと思いました。軍隊の訓練とエアロビのコラボが、これまでに無い斬新なもの。近年、痩身グッズは「腹に巻くだけ」「はくだけ」「寝てる間に」など楽なものが多かった。それで痩せられるなら一家に一台必需品でもっと売れるはず。メッキが剥がれた。

 やっぱりガンガン運動しなくては“アカン”とアメリカ人も気づいたようです。うちの会社では、30代の男子が7日間のプログラムで1.5pウエストを減らし2回目に入ったと言ってました。20分やって諦めた女子がいる。翌日体中筋肉痛になった女子もいる。腰を痛めたおじさんもいる。それは気の毒としか言いようがありません。

 さて私はといえばDVDを寝転んで見るだけ。『中高年に必要なのは持久力と柔軟性、筋力はそこそこあればいいのさ』と割れ腹筋にほど遠いたるんだ腹を見て慰める。DVDでは、やり終えると最後に隊長を中心に手をつなぎ、ジャンプして『ラバトリィ!』いやトイレじゃない、そう『ビクトリィ!』と感極まるおたけび。しかしそこまでの道はどうも果てしなく遠いようです。

 余談ですが、ひよこさんが友人とのランチ会でこのDVDのことを言ったら『見せて!貸して!』と一斉に声が上がりました。会社でもほとんどの女子が『借りたい人は?』の声に手を上げていた。女子の必要性は尋常ではないが、はなから最後までやれないと思っているのか、買う気がないのも尋常ではない。

 でも世の中には本気な人が沢山いました。セット価格9700円で1枚当り1000円のロイヤリティならビリー隊長は日本での儲け5億円、全世界では、に、に、200億円か『ひえ〜、尋常ではない!


2.六畳間のコンサート!

 安彦君は苦学生です。

 田舎から名古屋に来て奨学金を貰い、働きながら新聞配達店の寮から学校に通っていました。趣味はオーディオです。そのつながりで彼と友人になったのですが、歳は一回り以上違います。パイオニア社の最高級コンポを揃えるのが夢です。一番高いカセットデッキとヘッドフォンを買って百恵ちゃんを聞いていました。

やがて就職が決まり、私が安い借家を探し引越しも手伝ってあげたのです。彼は夢の実現に向け即席ラーメンを食べ、プレーヤー、アンプ、スピーカーと順に買い足していきました。そして六畳の和室をアルミの防音カーテンで囲み、大音量を出してもいいように改造したのです。何と何と全部で200万つぎ込みました。ところが肝心の山口百恵ちゃんが引退してしまったのです。

 しばらくして彼が『遊びに来て』というので仕事の帰りにその家へ寄ったのです。部屋は、オーディオセットのラックで狭くなっていました。『新しいLP買ったので聞いて』と言う。2,3曲聴きました。私も知っているアイドル歌手です。
それから同じアイドルの2枚目のLPを見せ『これ最新のだから前のと聞き比べて』と針を下ろします。

 驚きました。同じ娘が歌っているのに違う声に聞こえます。1枚目は、アイドルらしいキャンディボイスでエコータップリ、いわば濃い目のお化粧をほどこした感じです。でも2枚目では、エコーも音質調整もあまりしてないので声質が生のように聞こえます。

 彼女は、ややかすれた声の持ち主だとはっきりわかりました。そして何より歌がうまくなっている。特に歌の演技力が素晴らしく、詩に合わせて役になりきっています。彼のオーディオは、ラジカセの音では表せない世界を聞かせてくれる。

『いいな〜、この娘』
『ね、いいでしょ』

『このオーディオはすごいなあ。彼女がこの部屋で歌っているようだ』
『これからこの娘のLP集めようと思う』

『百恵ちゃんの後釜が見つかって良かったな』
『うん』

 それは松田聖子ちゃんです。
それから半年ごとに発売されるアルバムを彼は購入しその都度私を呼んでくれます。六畳間のレコードコンサートを二人で楽しみました。帰りには、録音済のカセットテープをちゃんと用意していて私に渡してくれます。

 あるとき彼が私に『僕らは彼女と同世代だけど、一回り以上歳が違うのによく聖子ちゃんを好きになったね』と不思議そうに言いました。
 
 私はレコードジャケットを見せ『彼女は確かに10代の女の子。でも曲や詩を作っている松本隆、財津和夫、ユーミン、大瀧詠一は私たちの世代。つまり30代の大人が作り上げたものを君たち若者が喜んでいる』
『そうか〜』


 『プロジェクト聖子があって彼女をスターにするため緻密な計算をしていると思う。例えば彼女は、きちっと年4回シングルを出しているだろ。四季に合わせて歌を作っている。曲は印象的なイントロ、カッコいいりズム、いきなりサビから始まるとか歌謡曲っぽくなくニューミュージック風に組み立てられている。

 それから詩も♪右手に缶コーラ、左手には白いサンダル〜なんて実に斬新。彼女が裸足で砂浜にいるのが浮かぶ。このようにシーンがはっきりしていて映画を見ているよう。歌が進歩しているのは、向上心があるから。歌い方で腹筋を入れメロディの最後をふっと抜く所なんか好きだ。


 多分プロジェクトのメンバーは彼女を大好き。きっと魅力的な女の子。だから大人たちは、聖子ちゃんのためいい作品を生み出そうと全力を尽くしたと思う。そして成功した今は“やったやった”と喝采しているだろうな』
彼女のことを話すとつい熱弁になってしまいます。彼も『そんな見方、考え方もあるのか』と聞いてくれました。

 やがて聖子ちゃんは、“聖子ちゃんカット”“ブリッコ”など一世を風靡し社会現象となるぐらいビッグスターになったのです。その後、安彦君は結婚してビッグ太腹になり転勤で今は名古屋にいません。彼女はスキャンダルも多かったけど、私にはプロジェクト聖子の作品は色あせず心に残っています。

 今も車で聖子ちゃんを聴くことがあります。彼女は45歳になったけれど流れてくる歌声はその時のまま。するとカレンダーをめくるようにあの時代に戻ることができます。彼が全給料を注いだオ−ディオセットのコンサートが鮮やかに蘇る。彼と夢中で聖子ちゃんを聴き、語り合った六畳間‥懐かしい。 

  彼女のコンサートのチケットを購入しました。ひよこさんも私も初めてです。私たちの娘が小さな頃、玩具のマイクを持って『ぷれっしゅ、ぷれっしゅ、ど、ど、ど‥』(フレッシュ、フレッシュ:♪夏の扉)と踊っていたのを思い出します。ひよこさんは『ぷれっしゅの本物に逢えるんだ』と興奮気味、私はワクワクよりドキドキ気味。

 きっと元気と感動を貰えるでしょう。日本ガイシホールの開演までもう少し‥   [7/8(日):15h開演]

2007.07.07.20.27