19   “確率1%

 コブクロのDVDを娘が友人から借りてきてくれました。私が、名古屋のコンサートチケットの抽選に外れたからです。歌の間で彼らが『デビューして5年間、歌い続けてきました。その情熱を支えてくれたのは皆さんの応援のお陰です』と語っています。彼らの情熱は、素晴らしい作品を次々生み出しました。

 何でもいい、人生で情熱をかけられるものがあることは素晴らしいことです。仕事でも、趣味でも、愛情でも‥ひるがえってこの私は? 山たまご東海岳行に情熱をかけましょう。なぜなら『情熱の火を絶やさず3年間続けてこられたのは、皆さんのご訪問のお陰です』素晴らしいレポや道草を‥いかん、またパクッている。

 さて今回は、矯正という仕事に情熱を持っている人のお話です。中高年向きの話題ですがご辛抱ください。


1.加齢なる一族

 会社の人と宴席がありました。6人で飲んで食べて喋っていると全員、眼鏡をかけていることに気づきます。50歳から59歳なので加齢なる人ばかりです。やがて一族の中で最長老の方が、自慢話をしだしたのです。
 『最近、遠近両用の眼鏡を作ってもらった。十万円もしたんだぞ』

 さて45歳を過ぎると誰もが、目の変化を感じます。ある日、新聞を腕を伸ばして見ている自分がいる。細かい字の書類が読みにくくなっていることにも気づく。お店に薬を買いに行っても箱の効能書きがさっぱりわからない。やがて近眼の人は眼鏡を外して舐めるように文字を読むことになります。

 近眼なのに近くが見えない!遠くも見えない!『何とかしてくれ〜』と叫びたくなり、悲哀を感じるときです。でも最長老のように遠近両用眼鏡をかければ大丈夫。私ももちろん愛用中です。遠くの山を見るときは、目玉が上向きになるのでレンズ上部の近眼エリアで景色を見ます。

 書類を見るときは、目玉が下向きになるのでレンズ下部の遠視エリアで字を見ます。その遠近のつながりは、ズーム方式なっていて近眼から遠視に自然に変化しているのです。良く考えられていて実に具合がいい眼鏡だと思っていました。が、そのときが最長老は全然違うことを言い出したのです。

 『十万円もしたのにまったく、眼鏡が合わずクラクラする。調子悪くて結局は今までと同じように近眼用のをかけ、書類は裸眼で見ている』彼はこの地区では有名な某眼鏡チェーン店で作ったそうです。自分の目は、遠近両用には向いていないようだと嘆いています。

 すると別の人が『俺もその店で十万円近くかけて遠近両用を作った。やっぱり目に合わなく結局、いつもは近眼用眼鏡をかけ、面倒だけど首から遠視用をぶら下げて必要なときにかけ換えている』

 なんともう一人『同じですな。眼鏡を作るといったらあの店ですよねえ。しかしやっぱり私も遠近両用は合わないようで、運転用、仕事用と何本も使い分けしています。十万円の眼鏡は引き出しにしまったままですよ』
 
 私もがんじがらみの近眼で実は48歳の時、遠近両用を作りました。でも一度も不便に思ったことはありません。十万円はしませんが、それなりのおきつめの値段です。実は、彼ら3人が合わないわけを知っています。ある眼鏡屋さんに『眼鏡をその人の目に合わさなければいけないのです』と教えてもらいました。つまり自分に合ってない眼鏡にみなさんは大金を払っているのです。


2.眼鏡屋さん

 さて私も以前は、某眼鏡チェーン店で作っていました。あるとき作ったばかりの眼鏡をかけたら、枠が左耳の上あたりで強く当たっていて痛い。それに良く見えるようになったのですが、一日かけていると頭痛がする。あまりにひどいので苦情を言って返品したのです。その時は、まだ近眼用眼鏡でした。

 そして仕事の関係で知っていた岐阜の個人がやっている眼鏡屋さんで作り直したわけです。そのお店は、江南の我が家から車で30分かかります。それでも私に合うものを作ってくれるので20年以上出向いているわけです。店長(社長)さんが、私の苦労した話を聞いてとても面白い話を聞かせてくれました。

 『眼鏡を作るには、重要なポイントが四つあります。@検眼、Aレンズ選び、Bレンズのセッティング、C眼鏡のフィティングです』

 @検眼『お客さんと話をしながら今、困っている目の状況を聞きだします。車を運転するのか、仕事でパソコンをするのか、台所仕事をするのかなど生活視力を確保することが大事です。視力矯正は、日常生活で困らないようにしなければなりません』

 私も1.0の視力では、疲れるので0.9で合わせた方が良いと言われて驚きました。何が何でも1.0にあわせる必要は無いという意見は初めてです。仕事のときと運転するときと眼鏡をかけ換えることはしませんので一つでオールマイティにしてくださいと注文しました。

 Aレンズ選び『度の強い人は薄くて軽いレンズを選んであげます。メーカーによる特性も考えなければなりません。テレビで国会議員が書類を読むとき、鼻眼鏡をして答弁していることがあるでしょ。思わずそんなことしなくてもいい合った眼鏡を作ってあげたくなりますよ』

 でも性能のいいレンズは、価格が高いのが欠点。しかし、それで完璧に見えるならその価値はあります。視力の低下は、眼鏡で殆ど治るのでありがたい。病気だとこうはいけません。小学生のとき、初めて作った眼鏡をかけて何重にも見えていた月が、くっきり見えた喜びを覚えています。でも度が進んで眼鏡を作り替えるたび目が眼鏡に合わせようとしていたことも覚えています。

 Bレンズのセッティング『レンズをカットして眼鏡のフレームにセットするときは細心の注意がいります。例えばレンズをフレームのどこで固定するか、前・真中・後、その人の焦点距離に合わせます。そして目の中心点とレンズの中心点がずれないようにセットします。コレがとても重要です。

 つまり眼鏡をかけたとき、左右の目の幅と眼鏡レンズの中心点の幅がぴたっと一致していること。フレームの中心点とレンズの中心点とを合わせることではありません。この中心軸が狂っていると眼鏡をかけているるのがイヤになります。

 その場合、脳は目と眼鏡の間でずれた中心軸を修正するため必死で一日働くわけです。あるお客さんは東京の有名眼鏡屋さんで作られた眼鏡でしたが、測ると4mmもずれていました。長い間、原因不明の肩こり、吐き気、頭痛で悩んでいたそうですが、正しい眼鏡を作ってあげたらぴたりと治りましたよ』


 私の返品した眼鏡は、この取付け方が悪いと教えてもらいました。私の場合は、中心軸が0.5mmずれてもダメだそうです。

 C眼鏡のフィティング:『眼鏡を顔にかけます。鼻に出来た眼鏡パットの跡に新しいパットをきっちっと合わせる。ツルを左右の耳に合うカーブをつけ、かけてもらいます。鼻と両耳の三点に重さが等しくかかるよう調整すると重さを感じません。フィティングのいい眼鏡は、顔を上下左右に振っても動きません』

 しかし店長は『今や眼鏡は雑貨のように売られている』
と嘆きます。『その人に合った眼鏡というのは世界にたった一つしかありません。新しい眼鏡をかけたとき、目が今までより楽になるのがいい眼鏡です。力が入るようでは、その眼鏡は合っていません』

 このお店は、創立30年ほどなりますが一度も新聞チラシを出したことが無いそうです。『30年もやっていると親子三代で来てもらえるのでその必要がありません』と自慢げ。因みに岐阜出身のマラソン選手、Qさんのご両親もこのお店の常連さんです。ひよこさんは目がいいのですが、近くが見えなくなったので辛抱たまらずここで遠視用を作りました。

 今まで眼鏡をかけたことが無く、精神的に随分葛藤があったようです。店長が『必要なときにかけてください。‥でもきっと眼鏡をかけたほうが楽なのでずっとかけていたくなりますよ。遠くを見るときも見やすいレンズにしておきました』それが悔しいのでかけないようにがんばっていましたが、結局、今は店長の言うとおりになりました。


3.確率

 あるとき、店長に気になっていたことを聞いたことがあります。
『ところであの四つのポイントが、きちっとできる眼鏡屋さんはどのくらいあるのですか?』
『全国で眼鏡専門店は約1万軒です。きちっとした眼鏡を作れるのはその中で‥そう1%でしょうか』
『え!そんな少し。では県に1、2軒じゃないですか。そのお店に出会うことは奇跡だ』


 1%という事は、200人眼鏡の人がいたらラッキーなのは二人。その二人は私とひよこさんで二つの席を埋めている。するとこの道草を300人の眼鏡人が見たとき、やっとあと一人ラッキーな人がいることになります。確率ひく(低)! 

 さて、最初の十万円の使えない眼鏡を作った加齢なる一族の人たちにもあの夜、この内容をある程度話してあげました。そしてお店の名前と場所も教えてあげたのです。でも誰一人行っていません。その理由は‥私には良く分かります。一族の人たちは、自分に合う眼鏡が世の中にあること自体信じられないと思っている。

 それに多少我慢すれば、工夫して何とかやっていけます。命にかかわるほど重要ではないことです。でも私は運がいい。一つの眼鏡で快適に暮らせるのだから店長に感謝しなくてはなりません。でも遠視の度は、容赦なく進んでいくそうです。だから3年ごとにレンズを変えなければいけません。老人力に対応するのにもお金がいります。

 しかし‥次の道草は、もう少し若い内容のほうがいいかな。

2008.3.4(日)00.00