岳行ノート

乗鞍高原 1450m〜1650m)/長野県松本市
2008年10月12日(日)


錦秋の乗鞍高原
乗鞍主山剣ケ峰が見下ろす中央やや上の平らな台地を歩きます)



 我が家の月めくりカレンダーを見て感動し、7月に富士見高原白樺ゆりを見に思わず現地まで行ったものです。ところが10月の写真にまたまた心動かされました。

 今月の写真にも心動き、これは是が非でもと入れ込みます。それは彩る紅葉が、池に映り込んだものです。欄外に小さくまいめの池/長野乗鞍とあります。

 即刻、調べたらなんと好都合なことに入手したばかりのガイドブックに載っていました。そうして時期を待ちます。毎日ヤフーの紅葉情報を見守っていたのです。

 とうとう「見ごろ」と記されたので乗鞍高原に出かける準備をします。ちょっと遠いので3連休で一番天気予報が良い日にしました。紅葉パラダイスに期待が膨らみます。


 教科書は、信濃毎日新聞社刊「信州高原トレッキングガイド」です。
駐車場周辺図
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座望庵P

まいめ池

歩道入口

キャンプ場

夜泣峠

牛留池

ランチ

善五郎の滝

鈴蘭橋P

オルガン橋

ネイチャープラザ

あざみ池

座望庵P


※色線は実測ではありません。

■「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平17総使、第98号)


江南:5時35分発
 12℃/晴れ後、曇り殆どパラダイス
周回:4時間00分(小休止含)

 今年から片道860円が無料化された上高地乗鞍スーパー林道を奈川から走ります。道中の沸き立つ紅葉絵巻を何度も撮影。

 ようやく座望庵の無料駐車場着き、空身で南端から車道を渡れば‥
(9:25)

※2009年から土砂崩れで2010年6月現在、奈川から乗鞍高原まで通行止です。確認後、他道路を利用下さい。(軟弱3さんより) 

『これこれ』これこそ前説で記したまいめの池です。20人ほどの観光客は、8割がたキャメラマン。
カレンダーの写真は順光ですが、私は逆光になりました。
まったく同じ構図で撮ったのですが、写り具合は?『五分五分かな?‥んな、わけないか』
(9:30)
 



 一旦、駐車場に戻り体制を整え出発し直しました。やはり南端に一の瀬キャンプ場への入口があり快適な桟道が続きます。
 誰もいない白樺キャンプ場を抜ければ、せせらぎ沿いの道です。

 下写真の小橋を渡った分岐では、水芭蕉群生地に向かわず、右の山道で夜泣峠へ登ります。
(10:20)
 

すぐ尾根道になり、繰り広げられる紅葉の美しさに胸きゅん。でも本日、最大の急登です。
無言の会話が続く。でも二人で一緒に歩けば、同じ踏み音を聴き、同じ爽風を受け、同じ錦秋を見る。
思い出は一つ。

リュックも一つ。
私が二人分ずしりと担ぐ。そのわけは後で‥
ここで給水休憩をとった後、トラバースのジグザグ道へ進みます。


 登り切ると夜泣峠で乗鞍エコーラインに出ました。夜、女人の泣き声が聞こえるという話。今ならミステリースポットだ。上りは、三本滝ゲートなので正面へ下ります。
(10:45)

 右崖を注視して進むと10分で原生林の小経の道標がありました。ここから差し込む光がぐっと少なくなる針葉樹の世界です。
(10:55)
 



 笹道、苔道で巨木の下を歩けば、先週のにゅう登山道を思い出す。薄暗いシラビソの森を進むと桟道に出合い右折します。

その遊歩道は、池の周回路ですぐに牛留池の展望台です。
水面は、乗鞍岳を投影し静粛で波一つありません。
すると観光客が、次々やってくる。子供は勝手に走り回り、お母さんは大声、お父さんは追う。
(11:15)
 池の脇に質問状「この木はどうしてこのような形になったのでしょうか?考えよう」(ねじねじの木)
 ※この五葉松は、10/8TV「ナニコレ珍百景SP」が紹介。雪の重みか強風で折れたが、生きることを諦めず成長

 休暇村の駐車場を見てV字ターン。すぐ左折して善五郎の滝へ向かいます。途中の林道っぽい道も直進。

 ふたりの小経で紅葉パラダイス再演。いい具合にベンチがありました。

 おじいちゃんとおばあちゃんが、ブックエンドのように座りランチです。『げっふ!』
(11:45)〜(12:15)

 大正から高原で牛の放牧がされ、牛の食べない草が残り、牛がいなくなるとたちまち成長の早い白樺の林になりました。





 日中は、晴れ予報だったのですが曇天。そして急な道を降っていくと小大野川の水音が次第に大きく聞こえてきます。

ドウドウと善五郎の滝が力強い。滝幅も広く高さとのバランスがいい。(幅10m、高さ30m)
乗鞍三名滝で他は三本滝番所大滝です。これは後々の楽しみに取っておきましょう。
(12:25)


滝下の淵を左岸に渡り少し登れば滝見台で、遠い乗鞍岳と滝を見下ろし滝名の謎が解けます。

 気持ちのいい左岸尾根を歩いていくと下写真の林道です。

 まっすぐ行けばあずさ館が右にあり、その先の舗装の切れた所から山道を川へ降ります。
(12:55)

 




 再び小大野川を渡りますが、オルガン橋の名が謎です。見渡してもオルガンはありません。耳を澄ましてもメロディは???
(13:00)



 橋から白樺の小経ですが、白い肌の姫たちに会えるのはまだ先のようです。

 おや、上から『フイフイフイ』何羽もの鳥の鳴き声が聞こえます。

 ゴジュウカラを見つけたのは、五十肩のひよこさんです。幹を自由自在に動き回り樹皮の隙間を懸命に突っついています。

 地表ではベニテングダケ(毒)が、鮮やかな赤茶色で存在をアピール。この時期、どう頑張っても紅葉の鮮やかさに勝てないでしょう。




 名前通り白樺林となり、地道林道を横断すると道は右カーブを描く。方向感覚が怪しくなる頃、車の音が聞こえました。
 


 建物が見えたので降りると一の瀬園地入口のネイチャープラザ一の瀬です。大駐車場は紅葉狩の観光客の車で一杯。

 ここを写真左へ向かえば、舗装された小梨の小道です。
(13:30)


やがてこの園地で最大のあざみ池が最後のスポット、最後の休憩。

カモが、あちこち10羽近く浮かんでいます。
皆で頭を突っ込みお尻を立てお食事中。
(13:45)


 池からショートカット道があり、朝歩いた桟道に乗ります。10分も歩けば駐車場。お天道様が隠れたのは残念でした。でも‥

 これだけの紅葉パラダイス、池、滝、樹‥ピークハントはないけれど魅力的な山旅ができた今日に感謝。
(14:10)


東海岳行
  “黒板消し事件”      
 8月、高校の同窓会が名古屋のホテルでありました。私は旧友の田光君土田君と談笑します。その中である女子に降りかかった黒板消し事件のことが話題になりました。その女子を会場で探します。結局、大勢の参加者のため見つけることが出来ませんでした。

 会も終わり、三人でエレベーターホールへ向うと、田光君が歩いて来た色白の女子に声をかけました。『ひょっとして沢村さん?』『そうです。久しぶりですね』探していた黒板消し事件の被害者の女子です。



 あの事件は、高校2年の物理の授業でした。今のように教室にエアコンなどなく初夏の暑さをしのぐため、両サイドの窓と二つの引き戸は開けっぱなし。がっちりした体躯の岩崎先生が教科担当で春に結婚したばかりの新婚さんです。体育も受持ち、陸上部顧問でもありました。学生時代は、円盤投げ選手として活躍されたそうです。

 先生が説明しながら黒板に字を書いている‥と『クスクス』と女子の小さな笑い声が後ろからします。一番前席だった私はそれに反応して振り返る。驚いたことに成犬が教室に入ってきてうろたえています。場違いな所へ来たことを認識したようです。

 そのうち出ていくだろうと思い先生を見るとやはり気にしてチラッと上目づかいにその方向をうかがったところでした。先生は何も言わず授業を続ける。『クスクス』また笑い声。私も皆も振り返る。一番後ろの山川君が、半笑いで犬の首輪をつかんで頭や背中をなでているのです。犬が尻尾を振って彼にじゃれつく。

 『クスクス』笑いの声が大きくなる。山川君は、やり過ぎてるなと思った。その瞬間、忍耐の限界を超えた先生が、黒板消しをがっとつかんだ。彼めがけて思いっきり投げつける。すごい速さの黒板消しは、ドロップして4列目にいた沢村さんに当たったのです。

 私もその速さを目で追えず『え、どこに当たったの?』と一瞬戸惑いました。彼女が両手で口を押さえ下を向きます。黒板消しは通路に転がっていました。『大丈夫かな?』と心配したとき、手の間から鮮血が口幅で滝のように落ち、彼女は全身震えている。

 先生が跳んで駆け寄り、沢村さんを抱き抱え教室から出て行きます。先ほどまでクスクス笑っていた女子たちが、血で染まった夏シャツとスカートを見て、けたたましい悲鳴を上げる。犬をかまっていた山川君は、おろおろしながら二人の後を早足で追いかけました。

 当時の黒板消しは、表が木の板でラシャ状の布でスポンジを包んでいます。『カツン』という音が聞こえたので多分、木側が当たったと思われます。そこで記憶は止まっています。



 私が小学生4年生のとき、卓球部に所属していました。放課後にクラブ活動で練習中、受け損ねたピンポン玉が後ろに転がります。振り返って取りに行こうと一歩踏み出したとき、背後の子がシュートを打つためラケットを引きました。

 それが私の唇に思いっきりヒットしたのです。あまりの痛さに私は、しゃがみ込みます。友達が保健室へ連れて行く間にみるみる唇が膨れ5倍ほどの大きさになりました。1週間くらい食べたりのんだりするのに苦労したことを覚えています。



 あの黒板消し事件後、彼女も1週間ほど休んだでしょう。しかしクラスでは、誰もそのことに触れてはいけないという雰囲気がありました。女の子の顔が、傷ついた意味はわかってます。


 ホテルのエレベーターホールで事件のことを沢村さんに尋ねたら笑顔で答えてくれました。

 『今日は皆が聞くのよ。あのとき‥唇と歯茎のつながっている箇所を切って何針か縫ったの。あの夜、校長先生と岩崎先生が二人で私の家に来て、お父さんの前で校長先生が土下座をしたの。“まだ若く将来のある岩崎先生ですので何とぞこの事は御内分にお願いできないでしょうか”と言ったのよ』

 『そう、そんなことがあったのか』
 『お父さんは、受けたようよ』
 『その後、傷は大丈夫なの?』

 『え〜全然大丈夫、結婚もできたし‥。みんながその事で私を覚えていてくれたことが嬉しいわ』
そう言って彼女は立ち去りました。田光君がつぶやく。
 『良かった、幸せそうじゃん』 『うん、そうだな』と私は安どしました。



 なお、我々は当時から黒板消しの呼び方を疑問に思っていました。あれで黒板は消せない。チョークの文字を消すのだ。「シミ落とし」の法則からいけば「チョーク消し」が妥当です。「消しゴム」の法則に従えば「消し板」「消しラシャ」が順当と思います。どうでもいいけど、いまだにそれは謎です。

2008.10.13(月)22:40