岳行ノート
       キリトウヤマ 
霧訪山〜大芝山 1305m・1210m
長野県塩尻市
 

2014年5月3日(土)


大芝山のヒトリシズカ


 「霧が訪れる山という響きのいい山名は抒情を感じさせて、それだけで登山者を惹きつけるようだ」とガイド本の書き出しに誘われます。

 この本を手にした5年前から行こうと思っていました。霧訪山の登山適期は、山頂でオキナグサが咲く時期、ゴールデンウィークです。

 塩尻市までの高速は、混むでしょう。GWの間の平日に計画しましたが、好天を呼び込めません。それで行きそびれていました。


 今年は行こうと意志固め。4月から高速割引は改変され、休日がお得です。天気予報を睨んでGWの5月3日を山行日としました。

 教科書は、しなのき書房刊「信州日帰りでゆく山歩き/中信・南信」です。参考書として多くのホームページのお世話になりました。
<駐車地>
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 渋滞予測から中央自動車道岡谷JCTを午前8時まで通り、帰りは土岐ICを17時までに抜ければ渋滞には巻き込まれません。




駐車地

登山口

女坂

霧訪山

男坂

大芝山

駐車地


※赤線はGPS軌跡
※●は主な分岐点

■この地図の作成に当たっては国土地理院長の承認を得て同院発行の数値地図50000(地図画像)数値地図25000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである(承認番号 平17総使、第98号)」


江  南:午前5時05分発  晴れ/14℃
駐車地:午前7時50分着  晴れ時々曇り/15℃
アプローチ:2時間45分
往:1時間40分(霧訪山まで、小休止・撮影含)
還:2時間30分(ランチタイム除く)
◆所要時間:4時間10分

 5時出発で高速はスイスイ。長野自動車道塩尻ICで下り、矢沢川上流、山ノ神自然園へ走ります。

 園内の霧訪山登山口に着き、東京や山梨の車と並んで駐車。川沿いの自然園の道で歩きます。
(8:00)


 神社前から進むとダムに出合い、美しい抹茶色のたまらずの池です。池上方の霧訪山山頂とは、標高差430m。


 流れは小沢になり、踏み跡は右岸へ。達筆な「霧訪山登山口」。周囲は松、松、松。松茸が沢山採れそうです。
(8:20)

 鉄塔に到着。今日は暖かく、汗をかいたので給水を取ります。展望は良く‥ (8:50)

 北西に春遠からじの北アルプス。左ピークが奥穂高岳3190mです。


 尾根道を降りる女子に『オキナグサ、咲いてました?』『咲いてません、誰もが聞く』それ目当てですから。
(9:20)
『あ〜あ、オキナグサは咲いてないか』遠くから来たのに悲しい。
登ると尾根を急登する男坂、山腹を回り込む女坂。さてさて、、、


往きは、女子を選ばさせていただきましょう。
ポチポチ咲くカタクリ姫が春を告げています。女坂・男坂が合流して…

 はい、二等三角点山頂。信玄がのろし台に利用しただけに展望は良く、山名盤で北・南アルプス、八ヶ岳‥霞んでますね。(9:40)〜

 一角にロープで囲われたオキナグサ(翁草)保護区域。ここで咲いているはずですが、影も形もない。どうしたのだろう。

山頂中央に戻ると『お〜咲いてる、咲いてる。よかった』小さな祠の傍らでひっそりと一株。
何しろ環境省レッドデータブックの絶滅危惧種に指定されている野草です。
かって尾根中に咲いたそうですが、これが最後としたらフランシーヌの場合は余りにも悲しい。
   


オキナグサは、花が終わるとタンポポの様な綿毛に変化します。→
中央が風で飛ぶと頭頂部が禿げたお爺ちゃんのようでこの花名です。
親近感を感じます。軽食菓子パンひとつを済ませましょう。

 北西方面の展望。右端が大芝山山頂。 奥は「花の百名山」、レンゲツツジ鉢状山1929m。

 霧訪山は、大人気でパーティが次々到着します。退散しましょう。
〜(10:15)

 男坂の終わり、と前から小学生が8人歩いてきました。『男坂は急で女坂は緩やかで花があるよ』

 教えてあげると、どちらか悩んでいます。『せんせ〜い、どっち?』『男子は男坂、女子は女坂!』ナイスな指示。
(10:20)


 に「茸山につき入山禁止」の貼り紙が残っていました。たきあらしの峰に着くと鉄塔の向こうに大芝山山頂。
(11:00)


 朝、同時スタートして抜きつ抜かれつの山梨5名パーティが、しゃがみこんでいます。カタクリの撮影です。


 人が撮っていると私も撮りたくなります。もっといいのはないかと一生懸命探す。尾根を進むと‥

登山道の両側にニリンソウのお花畑。『ここ見て、ここ見て』 声が上がっています。
カタクリも交じって群生していますが、数では勝てません。大芝山は花の山です。


 大芝山は展望も三角点もないけど、これだけ花咲くなら問題なし。肩で左折し、西條城跡(洞の峰)へ。
(11:30)

(左)イガネワチガイソウ    (中)タチツボスミレ     (右)ニリンソウ


 鉄塔を2つ潜り、広地の西條城跡(洞の峰)1199m。麓の矢沢川沿いの下西条地区が望めます。
(11:50)

 尾根は北へ降りますが、城跡北端でロープが通せんぼ。道標が右折を指示するので従って山腹道を降ります。 

 5分北西の尾根を歩くとヘアピンカーブの指示があり、向きを変えました。結局、大回りして城跡への尾根に戻ります。


 山崩れ個所を避けるためのルートです。大鉄塔が見え、手前で伐採地に降ります。踏み跡を追えば大丈夫。
(12:10)

 の尾根を降り、鉄塔前で右折。植林になり、斜面にこの山の神社。鳥居前の林道を右折、駐車地へ戻りました。
(12:45)

 青空の春模様を見て車を走らせます。帰りの高速もスイスイでした。


東海岳行
  “道草セレクション:藤原岳の危機” 

出発

 何年か前、早春に単独で鈴鹿藤原岳福寿草の開花状況を見に出かけました。聖宝寺に置車して聖宝寺道で登り、下山は白瀬峠経由で木和田尾根を戻る予定です。その隣の坂本谷は土石流で通行止めとガイド本に書いてありました。登山道は、ぬかるみも少なく順調に藤原山荘へ着きます。

 あちこちで福寿草も輝いている。山荘から南の展望丘まで進み大展望を楽しんだら山荘へ戻りランチにします。そして初めての天狗岩へ向かいます。




2.出会い

 
30分ほど快適な稜線を歩くと天狗岩に着きました。大岩を回り込むと一等席には、年配の方が単独でランチをされています。

 挨拶をして写真を撮っていると‥『藤原へは良く来られるのかね?』と尋ねられました。

『いえ2度目です』と初心者丸出しの答え。『そうか。私は65歳だけど登山は7年前から始め、ここも何度か登ってます』



 それから鈴鹿からアルプスまで彼の登山話を10分以上聴くことになりました。初心者の私から見れば山も人生もベテランです。


『どちらから帰られるのか?』と尋ねら『白瀬峠から木和田尾根を降り聖宝寺へ帰ります』
『それは大回りだ。私は坂本谷から戻ります』『あそこは立入禁止では?』
『大丈夫、大丈夫。前に通りましたから』『そうですか、お気をつけて。ではお先に‥』


 
別れてすぐの天狗岩から白瀬峠への分岐がわからず、雪面の中を5分ほどウロウロしました。来た道を辿ってその分岐を見つけほっとします。白瀬峠に着くと案内板に<坂本谷立入禁止>の文字。『やっぱりなあ』そこから細い山腹道の雪に緊張し、坂本谷への分岐に出ました。



3.再会

 
坂本谷を覗くと荒れた様子も水流もなく静かなものです。しかし単独なので安全パイの尾根道で戻る気持ちは変わりません。倒木に腰掛け一息ついているとザクザクという音が聞こえてきました。見るとあの天狗岩で別れた彼が、2本のスキーストックで雪の急斜面を降りてきます。

 
私を見つけ、こちらに向かってくる。『やあやあ、天狗岩から白瀬峠への分岐を見つけられなく、適当に降りて来たよ』
 『すごい!急斜面をよくここまで来られましたね。私もあそこで迷いました』


 『一緒に坂本谷を降りませんか?近道ですよ』 誘いに一瞬迷いましたが、せっかく誘われて断るのも悪いし、ここで再開したことも運命。何よりも近道の言葉に魅かれます。『じゃあ、お供しますのでよろしく』と応えました。意志が弱い。



 後ろからついて歩き出すと‥すぐおかしな方向に進んでいかれます。
 『あのー、ここは右に曲がって降りるのでは‥』
 『おう、そうだそうだ』ちょっと心配だ。しばらく涸れた谷の左岸の踏み跡をたどっていくと斜面に忽然と福寿草の大群生が現れました。 『綺麗綺麗!』 私が写真を撮る間待ってもらい、また岸を行きます。



4.危機

 そのうちときどきあったテープも消え、踏み跡もなくなりました。
 『う〜ん、おかしいな?前はこの斜面に道があったのだが‥。そのときはここを登ってきたんだが、降るときとは様子が違うものだ』『え?』 次第に斜面は急勾配になり、立木も少なくなった。

 足元の土はボロボロと崩れ、歩くたびに小石がカラカラと落ちていく。危険な場所を避けながら歩いているといつか斜面の上部を歩いており、谷までの高さは数mだったのが、今や30m近くある。危険な状況に内心『やはり木和田尾根を行けばよかった』後悔してももう遅い。

 10mほど前を行く彼が、さらに斜面の高見へ上がろうとする。踏ん張った足の土が、崩れて谷へザザーッと流れる。支えを失った彼は、左肩から山側にどんっと倒れ、同時に滑り落ち出す。慌てて踏ん張るが、周りの土石を巻き込み加速を上げる。一瞬、身体に当たった枯木の切り株を必死でつかんだ。



 石が跳ねて落ちていき、遠い谷底で音を立てる。彼は両手で切り株を抱かえ、急斜面に腹ばいでぶら下がっている。足をあげ登ろうと試みた。歯を食いしばり必死の形相だ。しかし踏ん張る斜面の土はもろくガラガラ崩れ、足がむなしく空振りするだけ。あきらめてぶら下がっている。

 私はもがき終わったのを見て、背中のザックを下ろす。尻を落とし、ズリズリと慎重に彼の上部へ行く。そして切り株に足を当てた。2本のストックを束ねてつかむように言う。彼は両手でそれを抱きかかえ、少し這い上がる。彼の襟をつかみ、声をかけイチニのサンで引き上げた。

 『ありがとう、ありがとう』 『ここは高すぎる。谷へ降りましょう。私が道を探します』
 『降りられるかな?』 私は斜面に少しある立ち木の安定感を確かめ、それを頼りにジグザグ降り何とか谷に着きました。彼も後を追ってきます。あとは枯れ谷の大岩を乗り越しながら降っていきました。



5.別れ

 谷の最後にはダムの大堰堤です。長いアルミ梯子が垂直に立てかけてあり助かりました。彼と一緒に降りだしてから何と2時間過ぎています。やっと緊張感から開放されカラカラの喉にお茶をグビグビと流し込みました。車道を歩いて行くと彼が、谷を振り返り『ここで失礼する。山は綺麗だが怖いトコだ』と言いました。

 お互い名前も知らないまま別れました。私はこの命がけの経験がショックで、家でしこたま反省文を書きました。翌週、ひよこさんと木和田尾根を登り、あの再会した分岐から坂本谷へ進み、福寿草のお花畑を見せてやりました。当然、この谷を降りて帰るつもりはなく、元の道へ戻ろうとします。

 すると下からどんどん登山者が登ってくる。『あれ、通行禁止じゃないのですか?』と聞くと『いや、工事の人が気をつけてと言って通してくれました』とのこと。土日はいいのかな? でも安全第一、私たちは来た道で帰りました。あの人は、今も元気に登っているのでしょうか。もし、あの出会いがなかったら‥。



 ※現在坂本谷は、通行禁止です。


2014.05.05(月)17:55