岳行ノート
船山 1480m/岐阜県高山市

2006.8.26(土)江南6時10分発 
     曇り時々晴れ  26℃ 
往路:2時間40分(小休止含)
復路:1時間45分(小休止含)

 位山三山で登っていない「船山」。園地化された山頂は、車で登れ巨大アンテナ群もあり、登頂意欲がわきませんでした。

 おまけに今回[道草]にも書きましたが、昔何度も「船山」に行っています。

 ところが、新しいガイドブックに西側の原生林コースが掲載されていました。原生林の言葉には弱い。『知らなかった。茶臼山みたいだ。』

 教科書は、山と渓谷社刊「新・分県ガイド 岐阜県の山」です。参考書は「可児からの山歩き」さんにお世話になりました。

※表紙の写真下に「道草一番星」を開設しました。岳行ページ下段の「道草」の一覧表です。
駐車場周辺図


原生林の遊歩道を辿る




休憩舎

船山三角点

神社

ランチ

分岐



※色線は実測ではありません。
■「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)、数値地図25000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平17総使、第98号)」

 


 あららぎ湖に着きました。ここのキャンプ場に周辺案内板があります。近くから歩く「船山」への登山道が表示されていました。

 お店の方に聞くと北東の林道に入口があるとのこと。『でも笹刈りしてないので相当苦労するよ。』
 一応、確認に行きました。少し登ってみると案の定、笹は腰まであり道がわかりにくい。地元の方の意見を尊重します。ここからの登山は中止です。
 ガイドブックにある位山峠まで走ります。先着のRAV4は、同じ尾張小牧ナンバー。

 手前は、位山官道の石畳で奈良時代の古道です。都へ召し出された飛騨の匠が、この峠で家族と涙で別れました。‥たぶん。
 さて案内板で確認し、幅広の遊歩道で原生林に入ります。
(9:45)

『やった〜!』たちまち圧倒的な巨木、ブナの森です。
一帯は岐阜大学演習林で大きな木には、マークが付けられています。
ブナ540本、ミズナラ226本、ヒノキ86本と調査記録板に表示されてました。

左:クロヒカゲ          中:キンミズヒキ       右:ヤマジノホトトギス

素晴らしい混合林なので秋になれば、彩り豊かな紅葉を楽しめます。
『こういう山は、秋に来なくちゃ‥』ひよこさんの小さな叱責。
「光と風の道」の道標が所々にあります。名の通り、いい風が励ましてくれます。




 中間地点の1285mまで8つの小ピークを登降しなければなりません。




 しかし、階段の段差はとても低く優しい。思ったほど負担になりません。

このヒノキもパワフルです。
サワラ、イチイ、ミズナラ、トチ、コナラ、ダケカンバなどなど多様な樹林帯が広がっています。
彦麻呂風に言えば『ここは、樹木の宝石箱や〜』
 蛇にひよこさんがビビっている。と、上からご夫婦が降りてこられます。隣町の扶桑の方で三角点の位置など教えていただきました。RAV4の人だ。
 登りきった所にタイミングよく休憩所です。椅子が無いのが難点。いくらでも水分が、身体に入ります。ここからは、花木園となり平坦な道です。
(11:50)
 その花木園管理棟は、自分の管理ができなく荒れ放題。かってTVでドン・キホーテ隊が、鉄階段を昇り屋上から眺望を愉しんでいました。

 現在、階段に[立入禁止]の看板です。
 山頂は、船山無線中継所となってます。一基建設工事中でNHKアンテナはペンキ塗り中でした。ヘリポートもあります。

 岐阜放送、名古屋テレビ、中京テレビ、CBC,NTT等の巨大アンテナ群。原生林の巨木に負けていません。

トミさんと登った「本宮山」を思い出しました。
 歩道右に三角点が、埋め込まれています。アンテナに囲まれ肩身が狭いのか、存在感が薄い。
 テクノプラザでは、登山姿も場違いのよう。
(12:25)
 5分ほど進めば船山神社です。小ぶりですが、灯篭、狛犬、鳥居と格式が有ります。もう少し先に降りましたが、樹間から東方面が少し見えるだけです。
(12:35)

左:ヘビイチゴ      中:ハクサンフウロ     右:ゲンノショウコ
 来た道を戻り、木陰でランチにしましょう。この園地の北西、南東端に行くとまずまずの展望と風がありました。
(12:55)〜(13:35)

左:ツルリンドウ          中:ママハハコ         右:コガタツバメエダシャク
 帰路は、まずあららぎ湖分岐まで降ります。ただ到達地点は、あららぎ湖はありません。
ここから遊歩道は一転、笹ヤブ道に突進します。
(14:20) 

笹の背が高く深く見通しが悪い。足元を見て、笹の無いところを確かめ進みます。
 まだまだ続く笹の海。小柄なひよこさんは、溺れて泣きが入ります。降りで良かった。
 20分でやっと開放され、沢沿いの踏み跡の薄い草道を歩きます。このルートは、まもなく廃道化するのでしょうか。
 コンクリート壁が見えたら、危なげな橋を渡り県道に上がります。
(15:05) 
 暑い舗装道を上って行けば、出発点の位山峠です。RAV4に替わり和歌山ナンバーが止まっていました。
(15:15)

帰路、県道から「船山」を見ました。頂上は、確かに船底のように平坦です。
中央のアンテナは、もう夏の思い出となりました。
さあ、居眠りしないようにチャゲ&アスを歌おう。





  眠るな!           


 
社会人になりたての頃、スキーが流行していました。休日前、同年代の3人が、仕事を終え私の実家に集まります。そこから毎週、スキー場通いをしていました。4人とも初心者なので傾斜が緩やかでコブの無い船山のスキー場が好きです。

 夜中まで話すのでいつも睡眠時間が足りない。朝5時に起き真っ暗な中、A君のカローラに乗り名古屋の南区を出発しました。走行距離130キロ、チェーン装着時間込みで4時間近くかかります。順番でチーフを決めました。チーフは色々な決定権を持っていますが、帰りの運転をしなくてはなりません。

 その日は、私がチーフでした。9時頃スキー場に着き、リフト一日券を買います。さあ、滑ろう滑ろう。ゲレンデから見下ろすアルプスの雄大な景色は感動もの。昼食は、いつも家から持ってきたお握りを食堂で食べるだけ。余分なお金は使いません。毎週スキーのためには仕方ない。

 3時前になると早めの昼食で腹をすかせ3人が懇願します。『チーフ、ぜんざいを食べてはいけないじゃろか?』『許可しよう。』喜色満面でお椀を舐めまわすまで食べます。その後、帰り支度をして車に乗りました。
 当然、私がドライバー。彼らの役目は、私に居眠りをさせない見張り番です。最初、車中ではスキーの話で盛り上がります。チェーン外しもするので2時間は何事も無く過ぎました。

 だが冬の日没は早く、暗闇に視界が単調になる。暖房の効いた車内は心地よい。潜んでいた眠りの天使が、まぶたに舞い降りる。3人の意識は落ちる。私は、何度も何度も天使を払いのけがんばる。しかしもうゲ・ン・カ・イ・これ以上は〜。

 ゆっくり車を広い路肩に寄せ、車が止まる寸前、急ブレーキをかける。シートベルトの無かった頃で、みんな身体を前にぶつけ眼を覚ます。

『なんだ!』
『どうした?』
『事故か?』と全員、私と周りを交互に見る。
私が、みんなに向かってわざと大声で叫ぶ。

『いかん!眠って運転してた!』

『ほんとかあ?』
『ああ。どこをどう走っていたか記憶が無い。』
『おいおい冗談じゃない』そう言うが誰も運転を変わろうというやつはいない。

 再び走り出す。夕食代などなく、家の夕食までには帰らないといけない。しばらくは、みんなで私に気を使い話しかける。しかし睡眠不足、単調な視界、心地よい暖気‥あっさり天使の誘惑に負けた彼らの寝息。私は再び気合を入れる、太ももをつねる。しかしだんだん落ちていく。あ〜だ・め・だ。。。

 車を広い路肩に寄せ、静かに止まる。ジャケットを着て手袋をはめ、そーっと外に出る。ドアは開けたまま‥。残りの3つのドアもそーーーーーっと開ける。車の中は、幸せの楽園から一気に冷酷な環境に変貌する。しかし彼らの若い眠りは、頑強で眼は覚めない。私は、車を見ながら眠気覚ましにラジオ体操を始める。

 やがて冷えは、彼らの体の芯まで侵食する。と、たいしたもので生への執着スイッチが入る。死からの生還。

『寒い!死にそうだ。 ガタガタガタ‥』
『なんでドアが開いとる? ガタガタガタ‥』
『どうした、事故か? ガタガタガタ‥』

彼らは、おかれた状況を理解するまで数秒かかる。ドアを開けたまま、ラジオ体操をする私を見つける。わかったようだ。そして声をそろえて叫ぶ。


『こら殺す気か!!!』  


私が『諸君、お目覚めですか。ではおうちへ帰りましょう。』と言って運転席に座る。
『たのむ、暖房を入れてくれ。 ガタガタガタ‥』
『拒否。私が眠ったらみんな、とわの眠りにつくんだぞ。』

 チーフの決定には逆らえない。急いで彼らは、ジャケットを着込む。芯まで冷えると中々体温は、回復しないもの。可哀想なので暖房スイッチを入れる。
『ありがたい。 ガタガタガタ‥』
『恩に着る。 ガタガタガタ‥』
『生き返る。 ガタガタガタ‥ 』

 こうしてなんだかんだと私たちは、無事夕食前には帰宅したものです。
 今では、カフェイン入りの飲料、ガム、菓子があり眠気防止には困りません。しかし、昔の若者はこんな風に眠気と戦っていたのです。   おしまい