大36 “ある写真展” | |
その小さな生き物は登山者の嫌われ者です。 楽しい山行もパーティの一人が悲鳴を上げれば、一瞬で緊張の輪が広がります。 恐れるのは、音もなく身体に侵入し払っても払っても意に介せず、迫ってくる執念です。 そんなヤマビルに魅かれ、撮影を始めた方が見えます。 ■写真家紹介:お名前は細川健太郎さんです。(1980年生まれ、三重県津市在住) 大学、大学院で植物学を学んだ後、2006年よりネパール、南部アフリカ、 マダガスカル、南米などへ野生植物撮影の旅に出かけられました。 撮影対象としてヒルに興味を持たれ「ヒル下がりのジョニー」の西村社長に 『ヤマビルを撮りたい』とメールを送ります。そして撮影されたのが今回の写真です。 西村社長が細川さんを「東海岳行」に紹介していただきこの写真展を開催しました。 では写真とご本人の撮影話を一緒にお楽しみください。 2008年の南アフリカにて ブログ:世界自然紀行 http://littlejourney.blog67.fc2.com/ (転載使用はご遠慮ください) 2009.10.10 三重県鈴鹿市:小岐須渓谷(トリミング) 4年前に初めてデジタル一眼レフを手に入れて以来、ずっと野生植物の写真を撮ってきました。 そんな私がこの夏、新たな被写体として選んだのがヤマビルでした。 以前からヒルは大嫌いな生き物でした。 しかし、本気で写真に撮ろうという物好きもあまりいないはずで あえて挑戦してみるのも面白い、と思ったのです。 覚悟はしていたのですが、ヤマビルの撮影はなかなか大変でした。 2009.8.30 三重県四日市市:宮妻峡 まずはストロボです。ヒルの住処は薄暗い森で、おまけに動きが速い。 ストロボは必要不可欠です。 しかし内蔵ストロボでは思うように光がまわらないことが最初の撮影でわかりました。 そこでマクロ撮影用のツインストロボブラケットに2個の小型ストロボをつけ 左右から光線を当てることで、思うような照明効果を得ることができました。 ■撮影機材:カメラ:PENTAX K10D レンズ:SIGMA 17-70mm F2.8-4.5 DC MACRO 外部ストロボ使用 2009.8.30 三重県鈴鹿市:小岐須渓谷 それでもなお、ヒルは素早く動きます。ピントがなかなかうまく合ってくれません。 これにはもう、ヒルの動きに慣れ、それを予測して動き回るしかありませんでした。 そしてひたすらシャッターを切りまくりました。 ヒルの撮影は体力勝負でもありました。 2009.10.10 三重県鈴鹿市:小岐須渓谷 広角で思いっきりヒルに近づいて撮りたかったので、 カメラを地面すれすれまで持っていかなかればなりません。 しかし、膝はつけない。足下は「ジョニー」でガードしていますが、 膝や肘をついてしまうとそこからヒルが上がってきてしまいます。 そのため、非常につらい姿勢でヒルを追いかけることになりました。 (それでもカメラストラップから登ったヒルに一度首筋を吸われました) 足はパンパンになってくるし、腰は痛い、おまけにヒルを目と鼻の先で見ていると、 いや〜な汗がだらだら出てくる・・・という有様でした。 2009.8.30 三重県四日市市:宮妻峡 大変な撮影でしたが、何度もヒルに接していると、今まで知らなかったヒルの生態にも気がつきました。 カメラを近づけるとあれほど勢いよく近づいてくるヒルですが、私が少し離れると、 獲物を見失ったヒルは体を縮め、頭を持ち上げた「待機状態」(↑)に入るのです。 再び私が近づくと、ヒルは勢いよく動き出します。 2009.10.10 三重県鈴鹿市:小岐須渓谷 またシーズン終盤の10月、気温も20度ちょっとしかなく乾燥した日。 それでもヒルは出てきたのですが、動きが鈍く、すぐに待機状態に入ってしまいます。 刺激を与えると動き出してはくれたのですが、私とは別の方向に進んでいきます。 なぜだろう?と観察してみたのですが、どうやら沢の方へ、沢の方へと移動しているようなのです。 確かにこのときは、沢のすぐそばでしかヒルが出ませんでした。 おそらく湿度を感じる感覚器か何かがあって、 乾燥する時期には湿気のある場所へと移動する本能があるのではないでしょか。 2009.9.13 三重県四日市市:宮妻峡 ほんの思いつきで始めたヤマビルの撮影でしたが、すっかり夢中になり 結局7回も撮影に出かけてしまいました。 大嫌いだったヒルにも慣れ(それでも吸い付かれたくはないですが) 彼らから生命の躍動感のようなものを感じるまでになりました。 写真としてはまだまだ納得がいってないので、来シーズンもまた挑戦したいと思っています。 最後に、撮影に協力していただいた「ジョニー」の西村社長、山仲間の中尾君に深く感謝します。 『“ある写真展”って“ひる写真展”の間違いじゃないの。 さてぼくらは寒くなったので活動休止します。 それではみなさん待っていますので、また森へ来てね。 じゃあ、来年までおやすみなさい‥zzzzz』 |
2009.11.15(日)08.20