翌日、お母さんは純一さんに電話しました。
『あんなや物こんな物が沢山出てきて‥お父さんと思い出しながら片付けると中々進まなくってね』お母さんに涙声で話しかけられ、彼もつられて涙ぐんでしまいました。
数日後、純一さんが夜遅くまで仕事の後片付けをしているとまた電話がかかってきます。今度はお父さんでした。
『純一に見せたいものがあるから、今から来れるか?』お父さんからの電話はめったになく、余程のことと思い彼は慌
てて家を出ました。
早速行ってみると、お父さんの前に1台のラジコンカー!純一さんは車にこだわりを持っていますが、幼少のころから車が大好きだったのです。小学生のとき、友達は高価なラジコンを持っていましたが、彼は欲しくても朝から夜遅くまで働く両親に
『買って欲しい』とねだることは子供心にできませんでした。
小学3年生のクリスマスの日、その日は今でも覚えています。クリスマス・プレゼントにサンタさんが、1台のラジコンをくれました。友達が持っているラジコンとは見た目も走りも劣りますが、体中に喜びが満ちたことを記憶しています。(彼は4年生までサンタさんを信じていました)
そのラジコンをお父さんは、4階の愛の詰まった部屋で見つけたのです。
『お〜お』純一さんが歓声を上げ、感動の目で汚れたラジコンを受け取ります。お父さんは嬉しそうに新しい電池を渡してくれました。電池装着完了
『さあ〜〜動いてくれ!』しかし、ラジコンは無表情です。
あれこれ触ってみましたが電池が入りっぱなしだったので、電池ボックスは緑色の粉が浮き出ています。彼は何とか30年前の感動の記憶を呼び戻したいと思いました。家に持ち帰り、バラして錆びた配線を変え、翌朝までかかって組立て直したのです。電池を入れました。
『こんどこそ動いてくれ!』
朝5時7分、30年の眠りから目覚めたラジコンは力強く走り出しました。
『車体のここにシールを貼ったのが失敗だったなあ〜』とか
『俺のラジコンが一番かっこいい』とか、子供だった自分が感じた気持ち、それをいま蘇ったラジコンが鮮やかに伝えてくれます。‥涙もジワジワ出てきました。
純一さんは、やがてパジャマで起きたきた小学3年生の一人息子にそのラジコンを見せてやります。
『やりたい、やりたい』もちろん彼はそれは息子に譲る事に決めていました。30年前、純一さんのご両親もきっと同じ気持ちで彼を見つめていたのでしょう。
彼は息子に
『タイムカプセルで見つけた車だよ』と渡しました。
『???』