38     “タイムカプセル

 厳しい寒さは緩みました。「たまごの感想室」でお知らせしたスプレー事件のため、申し訳ございませんが岳行ノートの提出はできません。これからお風呂掃除には、絶対マスクを着用します。体調もようやく戻ってきました。大道草を作りましたのでよろしかったらご覧ください。さて今回は『タイムカプセル』というお題です。



 純一さんの実家は表から見ると3階建てですが、3階の部屋の天井から階段を降ろすと4階の物置部屋へ行ける仕組みになっています。30坪弱の土地に限界まで上へ積み増した産物です。1階は喫茶店になっています。この4階の物置部屋は、ほとんど『開かずの間』になっていました。

 ご両親いわく『30年間は開けていない!』と言い切るほどです。最近ご両親も歳を重ね二人でお店を切り盛りすることが大変になってきたようです。そこで一人息子の純一君が、自分でやっている商売を止め、お店を継ぐことになりました。

 彼が住む隣県のマンションから奥さんと一人息子を連れて引越し、ご両親と同居します。さあ〜大変!二人で暮らしていた家に三人家族が同居するわけです。小さな建物に30年間の物々が溢れています。2階を片付け・3階を片付け、最後!開かずの間4階へ突入したご両親の目に入ったものは?
 


 30年の歳月を経たその部屋は、感動のタイムカプセルに変わっていました。家族で毎年出かけたスキー旅行のスキーウエアー、衣類、純一さんのランドセル・サンタのおもちゃ・作品展で作った作品などなど‥1箱1箱あけるたびにお父さんととお母さんは『あ〜だった、こ〜だった』と思い出をしみじみ振り返ります。
 
 翌日、お母さんは純一さんに電話しました。『あんなや物こんな物が沢山出てきて‥お父さんと思い出しながら片付けると中々進まなくってね』お母さんに涙声で話しかけられ、彼もつられて涙ぐんでしまいました。

 数日後、純一さんが夜遅くまで仕事の後片付けをしているとまた電話がかかってきます。今度はお父さんでした。『純一に見せたいものがあるから、今から来れるか?』お父さんからの電話はめったになく、余程のことと思い彼は慌てて家を出ました。



 早速行ってみると、お父さんの前に1台のラジコンカー!純一さんは車にこだわりを持っていますが、幼少のころから車が大好きだったのです。小学生のとき、友達は高価なラジコンを持っていましたが、彼は欲しくても朝から夜遅くまで働く両親に『買って欲しい』とねだることは子供心にできませんでした。

 小学3年生のクリスマスの日、その日は今でも覚えています。クリスマス・プレゼントにサンタさんが、1台のラジコンをくれました。友達が持っているラジコンとは見た目も走りも劣りますが、体中に喜びが満ちたことを記憶しています。(彼は4年生までサンタさんを信じていました)

 そのラジコンをお父さんは、4階の愛の詰まった部屋で見つけたのです。『お〜お』純一さんが歓声を上げ、感動の目で汚れたラジコンを受け取ります。お父さんは嬉しそうに新しい電池を渡してくれました。電池装着完了『さあ〜〜動いてくれ!』しかし、ラジコンは無表情です。



 あれこれ触ってみましたが電池が入りっぱなしだったので、電池ボックスは緑色の粉が浮き出ています。彼は何とか30年前の感動の記憶を呼び戻したいと思いました。家に持ち帰り、バラして錆びた配線を変え、翌朝までかかって組立て直したのです。電池を入れました。『こんどこそ動いてくれ!』

 朝5時7分、30年の眠りから目覚めたラジコンは力強く走り出しました。『車体のここにシールを貼ったのが失敗だったなあ〜』とか『俺のラジコンが一番かっこいい』とか、子供だった自分が感じた気持ち、それをいま蘇ったラジコンが鮮やかに伝えてくれます。‥涙もジワジワ出てきました。

 純一さんは、やがてパジャマで起きたきた小学3年生の一人息子にそのラジコンを見せてやります。『やりたい、やりたい』もちろん彼はそれは息子に譲る事に決めていました。30年前、純一さんのご両親もきっと同じ気持ちで彼を見つめていたのでしょう。



 彼は息子に『タイムカプセルで見つけた車だよ』と渡しました。
 『???』

2010.03.13(金)22.:20