大44 “小太郎3/重い思い出” |
さて先週は登山をお休みしました。いつものように大道草を作りましたのでよろしかったらご覧ください。 タイトルの小太郎は、今年6月の道草“小太郎の秘密ノート”、道草“小太郎2/富嶽百景”で登場した高校時代の同級生です。スーパー頭脳を持ち、変わり者で友人もいない彼のエピソードです。高校二年生の時、同じクラスでした。三年生に進級する時、クラス替えがあったのですが、また同級生になりました。 高校三年の1年間は、今思い出しても二度と送りたくない受験勉強の日々。そんなブルーな二学期の中間テストが終わり、結果の出た試験用紙が、それぞれの教科で返される頃のことです。朝一番、ホームルームで担任が、いつになく重い口調で話しだしました。 『浅田、岩槻、鵜飼の三名のカンニングが発覚し、今日から1週間自宅謹慎となった。不正行為は決して行ってはならないことだ。反省をさせるための謹慎だからみんなも彼らの家に行かないように』驚きました。教室を見まわすと確かに彼らの姿は見えません。 そういえば昨日、下校時に彼らがバタバタ職員室に出入りしていました。噂では解答の文章がまったく同一で間違った箇所まで同じでバレたようです。彼らと私はそんなに親しくはありません。ワルではないのですが、ツレ同士の協力がアダとなりました。 その日、授業が終わり下校の準備をしていると小太郎が私の所へやってきました。それは珍しいことで、彼の所へ私が行くことがあっても彼が来ることはまずありません。何かと思うと耳元で囁く『浅田の家に行ってみないか?』『お前、浅田と友達だったのか?』『いや、行ってみたいだけだ‥』 私も自宅謹慎って始めて聞く言葉で、座敷牢にでも入るのかと興味はあります。しかし朝、先生が注意したばかりなのでその点を小太郎に問いただすと『様子を見るだけさ』と軽いノリ。カンニングした浅田の家は、高校の南門近く、小太郎の自宅も高校から近い。なので同じ学区で同じ中学校だったようです。 浅田の家へ行くには、南門から出れば一番早いのですが、その門はいつも鍵がかかっています。北にある正門から出て学校沿いに西回りで行くことにしました。角を2回曲れば、100m先が浅田の家です。50mくらいまで近づいた時、私たちの先、学校の東の角を曲ってこちらへ向かってくる自転車を発見しました。 学年主任の野末先生です。きっと自宅謹慎の状況を確認しに行くところでしょう。先生は教科書に出てくる原人に顔が似ていて、小柄ですがごっつい体格です。その風貌に似合わず女好きで、どのクラスでも一番可愛い子をひいきにします。しかしここで先生に見つかっては、我々も巻き沿いを食いそうです。 慌てて二人は電信棒に隠れます。すると思っていたとおり、浅田の家の門前に自転車を停め、玄関から中へと姿が消えました。すると小太郎がふらっと歩き出て、浅田の家に向かったのです。私は野末先生の姿を見て以来すっかりビビり電信棒の後ろに隠れたまま彼の様子を見ていました。 小太郎は塀の外から家を覗いた後、先生の自転車を見て急にしゃがみ込む。しかし、すぐ私の方に小走りで戻ってきました。右手の持った自転車の鍵を私に見せます。『お前、何考えているのだ!?』でもこの後の展開が気になり電信棒に隠れてしばらく待ちます。5分くらい経つと野末先生が出てきました。 先生はハンドルを持って右足でスタンドを外し、自転車を前に押すとつっかえ、フニャとこけそうになる。慌てて体制を整えています。スタンドを掛け直し、鍵がかかっていることを知り、全てのポケットを探し首をひねりました。自転車は、学校の備品でリヤカーを引くこともできる超重量級のガッチリダンプ型です。 すると小柄な先生が、大きな自転車を脇に抱え、エッチら来た道を戻っていきます。先生の姿が見えなくなろと小太郎が『行こうか』と言いました。二人で浅田の家の前を歩き、塀越しに覗いても別に何てことはありません。そして別れました。 翌日、登校すると私はすぐ先生達の自転車置き場へ行ってみます。あのダンプ自転車があり『鍵は?』‥付いていました。クラスに行くと小太郎は席についています。『鍵は返したのか』と言うと無言でうなづいたのです。野末先生は、鍵の付いた自転車を見たらどう思うのだろう‥と私はその日、一日考えていました。 そんな高校三年もやがて終わる日が来ます。卒業式に小太郎は最後のエピソードをクラス全員にくれました。長くなりますので、そのお話は次の機会に‥ |