85  “バンクシーの沼

 先回の道草は、名古屋で5/31まで開催のバンクシー展でしたが、掘り下げると謎が多く興味は尽きません。
 彼はストリートの壁や橋に作品を描くアーティストだと、私は思っていました。描く絵は、切り抜いた型紙を壁に当てスプレーするステンシル技法です。


 それでは食っていけない。生活費は? 調べると額縁絵画も多く描き、画商を通じ作品は売出されています。しかし覆面アーティストなので正体は不明です。

 いったい誰? 東京で発見されたバンクシーらしき絵は本物? 謎は多くバンクシーの沼は深い。ちょっと探検してみましょう。


≪Girl With Balloon≫
(少女と風船)1億1千万円

(1)バンクシーの作品落札額ベスト3


1位
≪猿の議会(退化した議会)13億円

2009年の初公開では、「Question Time(質問時間)」のタイトルでしたが、英国の欧州連合(EU)離脱に合わせ、「Devolved Parliament(退化した議会)」に改名されました。



 チンパンジーに占拠された英国の下院が描かれ、縦2.76m・幅4.46mの大作です。
アイデアが秀逸。でも
EU離脱問題は、描いてから10年後に起きたので予言したの?

2018年10月あのシュレッダー事件が起き、バンクシーの作品は注目され、価値が上がります。この作品は事件の1年後、2019年10月サザビーズで落札されました。


2位≪Show Me the Monet≫
(モネを見せてくれ)10億円



 2005年制作、油彩で縦1.43m x 横1.43m。
1位の≪猿の議会≫が落札された1年後、2020年10月サザビーズで落札されました。

 モネの代表作「睡蓮」をオマージュしています。モネの庭園に不法投棄された三角コーンやショッピングカート。どこからこんな発想が来るのでしょう。




3位
≪Forgive Us Our Trespassing≫
私達の不法侵入をお許し下さい
約9億円



 2011年制作、 縦6.55m x 横4.21m。
2020年10月サザビーズ香港で落札されました。重みのあるテーマです。

 子供達にアート作品の創作に積極的に取組んでもらうプロジェクトがありました。ロサンゼルスで学校の100名以上の生徒と一緒に作り上げた作品です。

(2)世界のバンクシー作品


バンクシー展の会場に大きな世界地図。彼のストリート作品が描かれた国が分ります。
右側の「TO BECONTINUED」(続く)の上に、日本の作品が載っていませんが? なぜ世界中で描くの? この疑問が彼の正体に近づきます。ではストリート作品を観ましょう。



≪No Ball Games≫ (球技禁止)の標識で子どもが遊ぶ

 2009年ロンドンで描かれました。ところが4年後、この作品は消えてしまう。ある会社がはぎ取ったのです。(上右) その後、同社は「盗まれたバンクシー」と銘打った展示会を開きます。バンクシーは、このイベントを自らのサイトで『むかつく』と述べました。


≪Brexit≫ (英国のEU離脱)

 2017年英国の港町ドーバーである家の壁に作業員がEU旗の星の一つを削り取る姿を描きました。(上左) 観光客が訪れます。しかし、2019年作品は白ペンキで塗りつぶされました。(上右) バンクシー、『いいさ、白旗がぼくの言いたいことを語っている』


≪Very Little Helps≫ 
(ほぼ何の助けにもならない
/下左

 2008年ロンドン、薬局の壁に型抜きスプレーで描かれた。レジ袋は、英国のスーパーTescoのもので、その企業スローガンは「Every Little Helps」(少しずつでも力になる)。作品のタイトルは、「Very Little Helps」(ほぼ何の助けにもならない) 英国ジョークか。

 
≪Letter(Pants)≫ (パンツ)

 英国のある企業が、バンクシーパンツの提供を要望しました。それをオークションに出し売上を寄付する企画です。彼は、パンツ代わりに上右の絵を送り手紙を添えます。「綺麗なパンツがなく、作品を送ります」 高値で売れ、めでたく慈善団体に寄付されました。


≪The Worst View In The World/≫ (世界一悪い眺め)

 
イスラエルによるパレスチナ人迫害を訴えるため、バンクシーは、↑右側の分離壁沿いに2017年このホテルを開業しました。政治的な訴えを持つプロジェクトです。

≪Napalm≫(ナパーム)

 1972年ベトナム戦争ナパーム弾を受け裸で逃げる有名な少女の写真を複写。彼女の表情は苦しげです。

 それに反し、微笑むミッキーマウス・手を振るロナルド・マクドナル。米国資本主義を批判しています。2004年作

(3)東京のバンクシー作品


≪アンブレラ・ラット≫ (傘を持つネズミ)

 2019年1月、東京・日の出駅近くの防潮扉で発見されたバンクシーらしき作品。鬼滅服の小池都知事が、『かわいいネズミちゃん』と微笑んでいますが、ドブネズミです。後日、都はこの扉を保護のため撤去しました。本物かどうか、尋ねたらどうでしょう?

 しかし、バンクシーのサイトでは、「いかなる違法行為にも関与しない」とあります。問合わせてもイエスの返事は貰えません。しかし(上右)は、その公式サイトに掲載された作品です。向きは違いますが、ほぼ同一ですね。


 ところでネズミは、を差しを持っています。どういうこと?英国では、ドブネズミは病原菌をまき散らし、電線を食いちぎる害獣なので「社会の敵」として嫌われモノです。

 英国文学「メアリーポピンズ」は、を持ち、空からやって来ました。銀行員の
バンクス氏の一家に舞い降ります。傘を持って空に飛ぼう、例え嫌われモノでも‥ポジティブですね。

 バンクシー展では、彼の制作風景が動画で観られます。(上左) 会場に彼のスタジオが再現されていました。(上右) ビートルジョン・レノンが、平和・戦争をテーマに歌でメッセージを発信したように、英国には体制に向かうベクトルがあります。


(4)バンクシーの正体?

 1997年から11年間、バンクシー専属のカメラマンだった人が、近年著書で彼の写真を掲載しました。(下左) 雰囲気は分かりますが特定できません。ところがベツレヘムに観光で来た英国男性が、無名のアーティストが描いていると思い、撮影しました。(下中) 

 
 その男性が、偶然バンクシーのサイトを訪問したら掲載されたドアの作品を発見。英国の2人組音楽ユニット・マッシブアタックロバートにそっくりです。(上右) バンクシーの作品の出現場所・時期は、マッシブアタックのツアー開催地・期間と重なります。

 東京は、2017年11月に来日コンサートしました。『かわいいネズミちゃん』は、多分その頃描いたのでしょう。ロバートはミュージッシャンの前は、グラフィックアーティストでした。でも本人は自分はバンクシ-ではないが、友人だと公表しています。そりゃそう言うでしょ。

(5)最新作と最最新作

≪Girl playing hula hoop with bicycle wheels≫
 「自転車のタイヤでフラフープをするぶ少女」

 2020年10月、英国の美容室の壁に残されました。ポールにロックされた自転車の後輪です。


 美容室のオーナーは、絵と自転車は一緒に、突然、現れたと語りました。
≪Aachoo≫ 「ハクション」

 2020年12月バンクシーの古里、英国ブリストルの家の壁に描かれました。急傾斜の坂は22度。


 お婆ちゃんは、コロナ禍でもマスクをせず、くしゃみで大量の飛沫を飛ばす。入れ歯まで飛んでいます。



 
 さて踏み込んだバンクシーの沼は、思った以上に深い。作品毎にエピソードがあり、いくつ紹介しても切りがありません。またテーマの解釈も決定的ではなく、見た人が感じたことが一番だと思います。遊び甲斐がありました。



 最後に寄ったバンクシー展会場のグッズコーナー。
 
 Tシャツは、4400円也。衝動買いをグッと堪えました。 
2021.02.14(日)23:35