岳行ノート

宝永山 2693m/静岡県御殿場市

2013年6月5日(水)


焼けた宝永山山頂&崩壊する赤岩


(右端のピークが宝永山/カシミール)


 昨年8月に富士山北西の青木ヶ原樹海を周回し、今年5月には世界文化遺産に登録される構成資産のいくつかを訪問しました。

 「富士山は見て楽しむ」ものと思い富士見登山は、しますが、二つの経験で方向性を変えることにしました。「触れて楽しむ」ことも面白い。

 日本一の山は、裾野が広く、懐が深く興味は尽きません。昨秋、30代の長男の初登山に御在所岳を案内しました。登山の理由を聞いてびっくり。


 『次の夏、友人と富士山に登るため』怖いものなしです。私はいきなり富士山登山はないので宝永山に登り、その気分を味わうことにしました。

 教科書は、「ロングツーリングクラブ/2008年9月ミニレポート/富士、宝永山登山ツーリング」さんにお世話になりました。
<駐車場>
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大きい地図
  新東名の新富士ICで下り、富士山スカイラインへ向かいます。


富士宮口五合目P

五合目宝永入口

宝永第一火口縁

宝永馬の背

宝永山

富士宮口五合目P

 ※赤線はGPS軌跡
※●は主な分岐

■この地図の作成に当たっては国土地理院長の承認を得て同院発行の数値地図50000(地図画像)数値地図25000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである(承認番号 平17総使、第98号)」


江  南:午前5時25分発   晴れ/19℃
駐車場:午前9時15分着   曇り時々晴れ/14℃
往:2時間10分(小休止含)
還:1時間25分(ランチタイム除く)
◆所要時間:3時間35分

 富士山スカイラインの終点富士宮五合目口に着くと土堤の復旧工事中です。
(9:15)

 今日は、富士宮ルート登山口から登る予定でした。そこには渾身のバリケードがあり、7月8日(月)の山開きまで入山できません。

 駐車場東端にある五合目宝永入口からピストンします。すでに標高2370m、高度順応のためゆっくり準備。

 奥に進み「富士山自然休養林歩道」の標柱から樹林帯に入ります。
(9:45)


 溶岩の壁、道の火山弾、ダケカンバ、シラベ、カラマツ‥富士の登山道は樹林がないイメージでしたが、ここはいい。 

 溶岩が流れた筋を横切ります。上方は富士山山頂。宝永山まで標高差323mの登りです。

 歩道は、水平トラバースで高度は稼げません。樹木が消え、歩道が突然急こう配になると‥
宝永山の外輪に出ます。宝永第二火口縁の分岐に出ました。見たことがない光景。
『これが宝永大噴火の火口か‥すごいなあ』真上に富士山、右が巨大な第一火口
左道を登り、下に弧を描く第一火口第二火口の境界で火口原に降ります。
(10:10)

  写真の右方へ目を移すと宝永山山頂です。(写真は3コマ下に)
雄大過ぎて全景がカメラに入りきりません。振り返って麓の方を見ると‥


 左のすり鉢が第二火口。斜面にかろうじて草が生えています。外輪の右には樹林が拡がり、外輪が森林境界です。


 標高を90m上げれば、第一火口縁の分岐です。向こうに見える宝永山荘経由の富士宮ルートを辿る予定でした。
(10:25)

宝永山は、第一火口の東で盛り上がった個所が山頂です。
第一と第二の火口境界をそのまま山頂へ登ることはできません。お椀のように上部は急角度です。
火口原に不思議な赤褐色の丘が見え、その右から稜線へ薄く登山道が延びています。


 第一火口縁の分岐から50m下降して300m登り返します。これは振り返ったところ。4層の溶岩を横に降ると‥

 火道に蓋をしたような赤褐色の丘。直径百数十m、高さ十数m。最後に溶岩がチョロっと出て固まったのでしょうか。
(10:35)

 「落石多発厳重注意」看板。ロープの向こうに第一火口奥壁上部から急斜面を落ちてきた火山岩がごろごろ。
(10:35)

 火口原にいると現実離れして噴火の威力が想像できません。トラバースの道へ向かいます。

 写真右部が宝永山山頂の斜面です。そこにも星の数ほどの岩が、落ちるチャンスをうかがっています。

 落石に厳重注意して登ると足元は不如意。火山礫の砂利が厚く、ズルッズルッと足運びがうまくいきません。

 斜度(17〜20度)きつく、空気薄く、息遣い苦しい。ストックを持ち、足裏全体を置くと少し楽になりました。

 日帰り登山者とすれ違います。朝4時半発で5時間で富士山登頂、12時下山予定とのこと。『健脚ですね』

 山頂の雪は5cmと少ない。富士宮ルートで登り、御殿場ルートから宝永山経由で下山すれば膝に優しいとのこと。
下山者の砂ほこりが目に入り、目薬が必要です。
火口原から登り始めて1時間で馬の背分岐点2720mに上がりました。上出来です。
向こうの第一火口奥壁の最上部は、標高3150mなので2420mの火口原まで標高差730mあります。

奥壁上部には岩脈が見られ、薬師如来になぞられて十二薬師岩脈群と呼ばれてます。
下から御夫婦がトラバース道を登っておられたのですが、暫くして見るといません。
カキン、カキンと乾いた高い音が、いくつも聞こえ落石に遭遇して戻られたようです。
(11:45)

 富士山山頂を背にして進めば宝永山山頂2693m。二人の単独者とお話ししながら雲海ランチします。

 山頂がロープに囲われているのは、北側を除き赤岩の絶壁だから。
(11:55)〜(12:30)

 近いところの雲が取れました。赤岩越しに南東の二つ塚という寄生火山。そこからは宝永山が大きいでしょう。

 先ほどバン!という音が4回聞こえました‥雷? 御殿場の自衛隊の訓練でしょうか。

 下山はすこぶる快適。火山礫の砂利道は砂走りができます。苦労して登った同じ道とは思えません。

 往きは60分でしたが、馬の背分岐から火口原に20分で着きました。これは赤褐色の丘から奥壁を見ています。
(12:55)


 植物には厳しい土壌です。いち早く進出するたくましい植物もいます。この野草は、オンタデでしょうか?

第一火口から見る第二火口は、降りていけそうです。一番奥にルートが見えます。
手前のスゲでここが草原になるにはどれほどの年月か。火口縁の向こうの山は片蓋山1488m。
ここから右上の火口縁まで標高差50mの登りですが、こちらの道は固いので楽です。
 宝永第二火口縁の分岐から森林限界の森へ入ります。今日は異次元の山行を経験できました。
(13:35)

 風が吹くとさすがに富士山は寒く、子供から貰った父の日のソフトシェルが役にたちました。

(13:55)富士宮五合目口駐車場着


東海岳行
   “宝永火伝” 

 今から306年前の1707年、沼津市の宿場町で土屋さんは、役場の記録係をしていました。年の瀬も迫った12月16日午前11時ころ地震が起きました。富士山を見ると南東斜面5合目辺りで噴煙が上がっている。夜になると火口の上で噴煙が赤熱して火柱のように見えます。

 土屋さんは記録を続けました。翌日未明には焼け灰が降りました。富士山は16日間焼け続け、毎夜稲光が伊豆の天城辺りまで光渡る。年が明けた1708年1月1日、午前4時ころ大きくひとつ鳴りました。

 陽が昇ると山は晴れ渡り、噴煙の場所に宝永山が見えます。この元日未明の噴火を最後に宝永大噴火のすべてが終息しました。研究では、大噴火の経過は、始め数時間第三火口が噴火し、次に数時間第二火口、その後第一火口が大噴火しました。

◆南から見た富士山、4)宝永火山、1)第一火口、2)第二火口、3)第三火口



 火口は右のように標高の高い方から第一火口〜第三火口と直列並び。往時富士山東山麓には高温の軽石が大量に降下し、家屋を焼き田畑を埋め尽くした。

 被害は甚大で火山灰は須走で2〜3m。降灰は江戸や横浜にも届き、5cmも堆積するほどでした。強風が吹くたびチリが舞いあがり、長い間江戸市民を苦しめます。

 多くの住民が、呼吸疾患に悩まされました。富士山麓の御殿場市などの被災地はもっと悲惨な状況でした。焼け砂で覆われた田畑は耕作不能、用水路は埋まり水の供給が断たれ、深刻な飢饉に陥ったのです。藩レベルでは救済ができなく、江戸幕府に願い出ます。

◆第一火口の珍しいリボン状溶岩



 幕府はこれを受け被災地を直轄とし、全国の大名から強制的に献金をさせました。40万両集められましたが、被災地救済に16万両当て残りは幕府の財政に流用されました。

 『いつの世も‥』 この宝永大噴火が歴史上では、最後の噴火となっています。今でも火山礫のある場所では、森林は回復していません。富士山火口を地形図で測ってみると直径650mです。

 
宝永山第一火口は、直径1200mもあります。富士山で一番大きな火口です。富士山が300年以上噴火しないのは、かってありません。怖いことに噴火の始まる49日前、遠州沖紀伊半島沖を震源とする巨大地震(M8.6以上)が同時に発生し津波も起きています。

◆第一火口の赤褐色の丘



 当時、この天変地異の被害から復旧まで相当の日数を要したでしょう。◆さてミニ情報ですが、富士宮口のマイカー規制は、今年は7月12日(金)〜9月1日(日)です。

 シャトルバスは往復1300円の乗車料金、水ヶ塚駐車場(駐車代1000円)から富士宮口五合目まで運行します。6h始発〜22h最終、30分間隔で40分間の乗車です。登山道は4ルートありますが、富士宮ルートは歩行距離・時間が最短です。

 富士宮口五合目2400mから登りが5時間、降りは2時間半。最高地点剣ヶ峰3776mに最も近い。欠点は大渋滞と下山の急勾配の岩道、登山道は、山影でご来光が拝めない、駐車場の収容力が小さくマイカー規制が行われます。ずばり、初心者にお勧めは須走ルートという意見がありました。

13.06.10(月)10:15